宇治拾遺物語 - 004 伴大納言の事

これも今は昔伴大納言善男は佐渡国の郡司が従者なり。かの国にて善男夢に見るやう。西大寺と東大寺とを跨げて立ちたり。と見て妻の女にこの由を語る。妻の曰く。そこの股こそ裂かれんずらめ。と合はするに善男驚きて。由なき事を語りてけるかな。と恐れ思ひて主の郡司が家へ行き向ふ所に郡司極めたる相人なりけるが日比はさもせぬに殊の外に饗応して円座とり出でむかひて召し上せければ善男怪みをなして。我をすかしのぼせて妻の云ひつるやうに股など裂かんずるやらん。と怖れ思ふほどに郡司が曰く。汝やんごとなき高相の夢見てけり。それに由なき人に語りてけり。かならず大位には至るとも事出で来て罪を被ぶらんぞ。と云ふ。
然る間善男縁につきて上京して大納言に至る。されども犯罪を被ぶる。郡司が詞に違はず。