これも今は昔源大納言定房といひける人の許に小藤太といふ侍ありけり。やがて女にあひ具してぞありける。女の女房にて使はれけり。この小藤太は殿の沙汰をしければ三とほり四とほりに居広げてぞありける。この女の女房に生寮家司の通ひけるありけり。
宵に忍びて局へ入りにけり。暁より雨降りてえ帰らで局に忍びて臥したりけり。この女の女房は上へのぼりにけり。この聟の君屏風を立て廻して寝たりける。春雨いつとなく降りて帰るべきやうもなくて臥したりけるにこの舅の小藤太。この聟の君徒然にておはすらん。とて肴折敷に据ゑて待ちて今片手に提に酒を入れて。縁より入らんは人見つべし。と思ひて奥の方よりさり気なくて持て行くにこの聟の君は衣を引き被きて仰け様に臥したりけり。
この女房の疾く下りよかし。と徒然に思ひて臥したりけるほどに奥の方より遣戸を開けければ疑ひなく。この女房の上より下るぞ。と思ひて衣をば顔に被きながらあの物をかき出だして腹を反らしてけしけしと起しければ小藤太怯えてなけざれ反りけるほどに肴も打散らし酒もさながら打こぼして大鬚をささげて仰様に伏して倒れたり。頭を荒う打ちて目眩入りて臥せりけりとか。