宇治拾遺物語 - 071 伏見修理大夫許へ殿上人共行き向かふ事

これも今は昔伏見修理大夫の許へ殿上人二十人ばかり押し寄せたりけるに俄に騒ぎけり。肴もの取り敢へず沈地の机に時の物ども色々ただ推し量るべし。杯度々になりて各たはぶれ出でける。厩に黒馬の額少し白きを二十疋立てたりけり。移しの鞍二十具鞍掛に懸けたりけり。殿上人酔ひ乱れて各この馬に移しの鞍置きて乗せて返しにけり。
つとめて。さても昨日いみじくしたるものかな。と云ひて。いざまた押し寄せん。と云ひてまた二十人押し寄せたりければこの度はさる体にして俄なるさまは昨日に替りて炭櫃を飾りたりけり。厩を見れば黒栗毛なる馬をぞ二十疋まで立てたりける。これも額白かりけり。大方かばかりの人どもなかりけり。これは宇治殿の御子におはしけり。されども公達多くおはしましければ橘俊遠といひて世の中の徳人ありけり。その子になしてかかるさまの人にぞなさせ給ふたりけるとぞ。