宇治拾遺物語 - 075 陪従清仲の事

これも今は昔二条の大宮と申しけるは白川院の宮鳥羽院の御母代におはしましける。二条の大宮。とぞ申しける。二条よりは北堀川よりは東におはしましけり。
その御所破れにければ有賢大蔵卿備後国をしられける重任の功に修理しければ宮も外へおはしましにけり。それに陪従清仲といふ者常に候ひけるが宮おはしまさねどもなほ御車宿りの妻戸に居て古き物は云はじ新しうしたる束柱立蔀などをさへやぶり焼きけり。この事を有賢鳥羽院に訴へ申しければ清仲を召して。宮渡らせおはしまさぬになほ留まり居て古き物新しき物毀ち燃くなるはいかなる事ぞ。修理する者訴へ申すなり。先づ宮もおはしまさぬになほ籠り居たるは何事によりて候ふぞ。子細を申せ。と仰せられければ清仲申すやう。別の事に候はず。薪に尽きて候ふなり。と申しければ。大方これ程の事とかく仰せらるるに及ばず。速かに追ひだせ。とて笑はせおはしましけるとかや。
この清仲は法性寺殿御時春日の祭乗尻の立ちけるに神馬使各障りありて事欠けたりけるに清仲ばかり努めたりし者なれども。事欠けにたり。相かまへて努めよ。せめて京ばかりをまれ事なきさまに計らひ努めよ。と仰せられけるに畏まりて。奉りぬ。と申してやがて社頭に参りたりければ返す返す感じ思し召す。いみじう勤めて候ふ。とて御馬を給びたりければ伏し転び喜びて。この定に候はば定使を仕り候はばや。と申しけるを仰せつく者も候ひ合ふ物どもも笑壺に入りて笑ひ喧騒りけるを。何事ぞ。と御尋ねありければ。云々。と申しけるに。いみじう申たり。とぞ仰事ありける。