宇治拾遺物語 - 049 小野篁広才の事

今は昔小野篁といふ人おはしけり。嵯峨の御門の御時に内裏に札をたてたりけるに。無悪善。と書きたりけり。御門篁に。読め。と仰せられたりければ。読みは読み候ひなん。然れど畏れにて候へばえ申し候はじ。と奏しければ。ただ申せ。と度々仰せられければ。さがなくて善からん。と申して候ふぞ。されば君を呪ひ参らせて候ふなり。と申しければ。汝放ちては誰か書かん。と仰せられければ。さればこそ申し候はじ。とは申して候ひつれ。と申すに御門。さてなにも書きたらん物は読みてんや。と仰せられければ。何にても読み候ひなん。と申しければ片仮字のね文字を十二書かせ給ひて。読め。と仰せられければ。ねこのこの子ねこししのこの子じし。と読みたりければ御門微笑ませ給ひて事なくてやみにけり。