宇治拾遺物語 - 095 検非違使忠明の事

これも今は昔忠明といふ検非違使ありけり。それが若かりける時清水の橋の許にて京童部どもと争ひをしけり。京童部手毎に刀を抜きて忠明を立ち籠めて殺さんとしければ忠明も太刀を抜きて御堂ざまに上るに御堂の東の端にも数多立ちて向ひ合ひたれば内へ逃げて蔀の許を脇にはさみて前の谷へをどり落つ。蔀風にしぶかれて谷の底に鳥の居るやうにやをら落ちにければそれより逃げて去にけり。京童部ども谷を見下ろしてあさましがり立並みて見けれどもすべきやうもなくて止みにけりとなん。