宇治拾遺物語 - 159 一条の桟敷屋鬼の事

今は昔一条の桟敷屋にある男とまりて傾城と臥したりけるに夜中ばかりに風吹き雨降りてすさまじかりけるに大路に。諸行無常。と詠じて過ぐる者あり。何物ならん。と思ひて蔀を少し押し開けて見ければ長は軒と等くて馬の頭なる鬼なりけり。おそろしさに蔀をかけて奥の方へ入りたればこの鬼格子押し開けて顔をさし入れて。能く御覧じつるな御覧じつるな。と申しければ太刀を抜きて。入らば斬らん。と構へて女をばそばに置きて待ちけるに。能く能く御覧ぜよ。と云ひて去にけり。百鬼夜行にてある遣らんと恐ろしかりけり。それより一条の桟敷屋にはまたも宿らざりけるとなん。


宇治拾遺物語 - 160 上緒の主金を得る事